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水戸地方裁判所 昭和45年(ワ)355号 判決 1973年10月01日

原告

戸田清子

被告

水戸スバル自動車株式会社

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の求めた裁判

原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し金五〇八万八、一五九円及びうち金四六二万五、五九九円に対する昭和四二年七月一四日から、金四六万二、五六〇円に対する同四五年一一月一二日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求めた。

第二当事者双方の主張

一  原告訴訟代理人は、その請求原因として、次のとおり陳述した。

(一)  原告は、昭和四二年七月一三日午後七時一〇分頃山口俊一郎の運転する普通乗用自動車(以下、被害車という。)に同乗して水戸市宮町一丁目一番地先の交通整理の行われている交差点を勝田方面から千波方面に向つて進行中、千波方面から水戸駅方面に向い時速二〇粁で右折進行してきた吉田英規の運転する自動車(以下、加害車という。)に衝突され、その衝撃により頭部打撲、頸椎捻挫等の傷害を蒙つた。

(二)  被告は、加害車を所有し従業員吉田英規をしてこれを自己のため運行の用に供していたのであるから、自動車損害賠償保障法(以下、単に自賠法という。)第三条により、本件事故によつて原告の蒙つた損害を賠償する義務がある。

(三)  原告は、本件事故によつて蒙つた前示傷害を治療するため、渡辺整形外科医院ほか数院に入、通院して、五四〇日以上にわたつて治療に努めたが、なお完治するに至らず、現在においても、なお、頭痛、めまい、両上肢麻痺感を有し、注意力散漫で疲労し易く、記億力の著しい減退等の症状を有し、僅かに単純な家事労働に従事することができる程度であつて、その後遺障害の程度は、自賠法施行令別表の後遺障害等級の八級に該当する。被告は、原告の度重なる転院を非難するが、本件事故によつて前示の如き傷害を蒙り心神の苦痛を感じている原告が、早期の快癒を希い何人かの医師、病院を訪れて治療を受けることは当然のことであつて、非難を受くべきことではない。

(四)  その結果、原告は、次の如き損害を蒙つた。

(1) 治療費等合計金一六万四、六一三円

(イ) 治療費 原告は、前記傷害を治療するため、渡辺整形外科医院、日立総合病院、志村胃腸科外科病院及び高野療術院等において治療を受け、その費用として金一〇万八、〇四三円の支出を余儀なくされた。

(ロ) 診断書代 原告は、渡辺整形外科医院及び志村胃腸科外科病院に対し診断書代として合計金八、一〇〇円を支払つた。

(ハ) 入院雑費 原告が日立総合病院に入院した昭和四二年八月一二日から同月二九日まで一八日間の入院雑費は、一日金二〇〇円の割合による金三、六〇〇円である。

(ニ) 通院交通費 原告が前記高野療術院に通院のため支払つた一往復金二七〇円の割合によるバス代一六六回分は、合計金四万四、八七〇円となる。

(2) 休業補償 原告は、本件事故当時有限会社瀬谷重機その他に経理事務員として勤務し、一日金一、〇〇〇円の割合による給与を得ていたが、本件事故のため昭和四二年七月一日から同四四年四月二五日まで六五一日の欠勤を余儀なくされ、その間右の割合による合計金六五万一、〇〇〇円の給与の支給を受けることができず、同額の損害を蒙つた。

(3) 逸失利益 前記のとおり、本件事故によつて蒙つた原告の後遺障害等級は八級であるから、その労働能力喪失率は一〇〇分の四五であり、また、原告の収入が一カ月金三万円であることは右のとおりであるから、原告は、一カ月右収入金三万円の一〇〇分の四五に相当する金一万三、五〇〇円の減収となつた。そして、原告は、本件事故当時二八年の女子であつたから、昭和四四年四月二六日から六〇年に至るまで三〇年間一カ月金一万三、五〇〇円の割合による得べかりし利益合計金四八六万円を喪失し同額の損害を蒙つたが、これをホフマン式計算法により民法所定年五分の割合による中間利息を控除してその現価を算定すると、金二九二万〇、七〇〇円となる。

(4) 慰藉料 原告は、本件事故によつて蒙つた前示傷害のため、長期間入院、通院したり、電気治療を受ける等して治療に努めたが、前記の如き後遺症を残し、そのため結婚適令期を逸したほか、生涯の仕事として経理事務に従事することもできず、精神的に甚大な苦痛を味つたが、右苦痛は、金二〇〇万円をもつて慰藉さるべきものである。

(5) 損害顛補 原告は、本件事故に基づき自賠法による保険金として合計金一一一万〇、七一四円の交付を受けた。

(6) 弁護士費用 原告は、昭和四五年六月一日弁護士赤津三郎に本件訴の提起とその追行を委任し、その際同人に対し手数料として金一〇万円を支払つたほか、謝金として損害額の一割に相当する金三六万二、五六〇円の支払いを約したので、その合計金四六万二、五六〇円は、本件事故によつて原告の蒙つた損害である。

(五)  よつて、原告は、損害賠償として被告に対し右(四)の(1)の(イ)ないし(ニ)、(2)ないし(4)及び(6)の合計額から(5)の金員を控除した金五〇八万八、一五九円及びこれにより弁護士費用を控除した金四六二万五、五九九円に対する本件不法行為後の昭和四二年七月一四日から、弁護士費用金四六万二、五六〇円に対する不法行為後の同四四年一一月一二日から各完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めるため、本訴請求に及んだ。

なお、被告の抗弁事実は、いずれもこれを否認する。

本件事故は、加害車を運転していた吉田英規の一方的過失に基因するものである。被害車を運転して本件事故現場たる交差点に差しかかつた山口俊一郎は、千波方面から時速約二〇粁で右折の合図をしながら右交差点に進入した吉田英規運転の加害車を約二五米前方に発見したが、直進車である被害車に進路を譲るものと考えてそのまま進行を継続し、右折を開始した加害車を約一三米先に認めて急停車の措置を講じたが間に合わず、本件事故の発生を見るに至つたのであるから、右事故は、吉田英規の一方的過失に基因するものである。仮りに然らずして、右山口にも本件事故の発生につき過失ありとするなら、それは、とりもなおさず、同人は原告に対し吉田英規とともに共同不法行為責任を負うべきものであるから、原告が被害車に好意的に同乗していたとの事実の如きは、右吉田の責任を軽減する理由になるものではない。

二  被告訴訟代理人は、答弁並びに抗弁として、次のとおり陳述した。

原告の請求原因第一、第二項の事実を認める。

同第三項の事実中、原告が本件事故によつて蒙つた傷害を治療するため渡辺整形外科医院ほか数院に入、通院した事実を認めるが、その余の事実を争う。原告は、志村胃腸科外科病院のほか転々として病院を変えているが、これはいわゆる心因性機能障害の典型的なものと目すべきであり、その際原告に対してした医師の診断も、原告の愁訴によつて判断したに過ぎないのである。

同第四項の事実中、原告がその主張のとおり自賠法による保険金の支払いを受けた事実を認めるが、その余の事実はいずれも争う。原告は、昭和四三年四月二四日治癒と認定されたのであるから、その後の治療費、休業補償費等は、心因性機能傷害によるものとして相当因果関係を欠くのみならず、原告のいう休業損害、逸失利益は、原告と同居する佐川千秋の無資格税理士業務のために支払われたものであるから、原告の収入と目すべきものではないが、然らずとするも、違法な税理士業務に対する報酬を基礎とするものであるから、法律上の保護に値しない。また、仮りに、原告に後遺障害あり、そのため労働能力が制限されたとしても、その期間は原告の症状が固定した同四三年四月二四日から最大限二年とし、その間における労働能力喪失率を五パーセントとして計算すべきである。更に、慰藉料は、入院、通院期間を考慮しても、過大に過ぎることは明らかである。

ところで、山口俊一郎は、原告の求めによつて原告をその自宅まで送り届けるべく、大谷はま所有の被害車に原告を同乗させ、原告の指図により勝田市から原告の自宅に伺つて運転進行したものであるから、運行目的等右運行の事情からすると、右同人は原告の被用者に準ずべき関係にあつたのみならず、損害の公平分担という見地から、右山口の運転上の過失は、原告側の過失と目すべきものである。

しかして、右山口は、被害車を運転して本件事故現場たる変形交差点を、勝田方面から千波方面に向い略々直進するに当り、前方道路から右交差点に進入して右折しようとしていた吉田英規運転の加害車を前方約二五米の地点に認めたのであるから、その動静を注視し安全を確認して進行すべき注意義務があるのみならず、被害車の進路の信号機(以下、B信号機という。)が「青の矢印」から「赤」に変つた場合には「赤」の信号の約四秒間一時停止すべき義務があるのにかかわらず、これを無視し、加害車が被害車に進路を譲るものと軽信し、その安全を確認することなく、時速約四〇粁で漫然進行したため、被害車を加害車に衝突させるに至つたのである。他方、右吉田の運転する加害車の進路前方の信号機(以下、A信号機という。)が「青」のときは、B信号機は「青の矢印」であり、その際加害車は直進自動車の進行を妨げないよう右折合図をして直進車に進路を譲るが、A信号機の信号が「青」から「黄」に変つた約四秒間(この間B信号機は「赤」信号を表示する。)に加害車が右折することとなる。そこで、吉田は加害車を運転して右折進行したのであるが、被害車は、B信号機が「赤」信号を表示していたのにかかわらず、一時停止はもち論徐行すらなさず、しかも加害車の進行を無視して進行したため、本件事故の発生をみるに至つたのである。そして、右山口、吉田間においては、右事故における過失割合を五対五とし車両損害はそれぞれ自己負担とする旨の示談がなされ、かつ、右にみた本件事故の態様からするなら、原告側の過失割合は五〇パーセントである。

原告は、本件事故に基づき自賠法による保険金として、東洋火災海上保険株式会社から傷害につき金五〇万円、後遺症補償として金六四万円計金一一四万円、興亜火災海上保険株式会社から傷害につき金五〇万円、後遺障害につき金六四万円計金一一四万円、以上合計金二二八万円の交付を受けたから、右金員は、原告の損害額から控除さるべきである。

以上の次第であるから、原告の本訴請求は、失当として、棄却さるべきものである。

第三証拠〔略〕

理由

一  原告が昭和四二年七月一三日午後七時一〇分頃山口俊一郎の運転する被害車に同乗して水戸市宮町一丁目一番地先の交通整理の行われている交差点を勝田方面から千波方面に向つて進行中、千波方面から水戸駅方面に向い時速約二〇粁で、右折進行してきた吉田英規運転の加害車に衝突され、その衝撃により頭部打僕、頸椎捻挫等の傷害を蒙つたこと及び被告が加害車を所有し従業員吉田英規をしてこれを自己のため運行の用に供していた事実は、いずれも当事車間に争いのないところであるから、被告は、自賠法第三条によつて原告に対し、本件事故によつて蒙つた損害を賠償する義務あるものといわなければならない。

二  そこで、損害額の判断に先き立ち、原告が本件事故によつて蒙つた前示傷害の治療経過とその症状について検討を加えることとする。

(一)  〔証拠略〕を綜合すると、原告は前示傷害治療のため本件事故の日たる昭和四二年七月一三日から同年八月二日までの間九日にわたり志村胃腸科外科病院に通院し、その後同月三日から同月一一日までの間二日にわたつて日立総合病院に通院したうえ、同月一二日から同月二九日まで一八日間同病院に入院し、更に同年九月一三日から同四三年一月一六日まで六日にわたり同病院に通院したこと、原告は更に同月一七日から同年二月九日まで六日にわたつて水戸中央病院に通院したすえ、同年三月七日から同年四月二四日(甲第七号証の一〇に昭和四三年三月二四日とあり、前示渡辺昭一も同旨の供述をしている部分もあるが、右は同年四月二四日の誤りであることは、〔証拠略〕に照らして明らかである。)までの間四日にわたつて渡辺整形外科医院に通院し、更に同年六月一〇日から同四四年四月二五日までの間一六六回にわたり高野療術院に通院して治療に努めた事実を認めることができる。

(二)  そして、〔証拠略〕を綜合すると、原告は前示のとおり志村胃腸科外科病院、次いで日立総合病院において治療を受けたが、右日立総合病院において治療を受けた最後の日である昭和四三年一月一六日現在、原告には頸椎の運動制限、神経症状のいずれもなく、レントゲン検査の結果によつても異常も認められず、原告の愁訴たる頭痛、めまい等もこれを認めるに足る地覚的症状も存しなかつたため、同年三月中には治癒見込と診断されたこと、原告はその後水戸中央病院において頸椎々間板ヘルニア(水戸中央病院に対する調査嘱託の結果には腰椎々間板ヘルニアと記載されているが、右は頸椎々板間ヘルニアの誤記であることは、右調査嘱託の結果のその余を部分に照らして明らかである。)兼右上腕神経麻痺の病名で治療を受けたが左右の握力がともに一八瓩(原告は右利き)であつたところから後者の疑を受けるに至つたものの、頸椎の運動制限は認められなかつたこと、原告はその後治療を受けた渡辺整形外科医院においても同年四月二四日に後遺症を残すことなく治癒(もつとも乙第二八号証には、昭和四四年三月二四日治癒見込と記載されているが、右は昭和四三年四月二四日治癒と記載すべきところ、これを誤つて右の如く記載した事実は、〔証拠略〕によつて明らかである。)とされた事実を認めることができる。もつとも、〔証拠略〕は、いずれも医師渡辺昭一の原告に対する同四四年一一月二六日付診断書であり、これには「頸椎中等程度の運動制限、頭痛めまい時々あり、両下肢シビレ感、疲労感強く、注意散漫、記憶力減退あり、就労可能であるが、職種の範囲に制限あり」と記載され、その労働者災害補償保険法の身体障害等級欄の記載は抹消されているが、証人兼鑑定人渡辺昭一の供述によると同人はこれに「八級」と記載した事実を認めることができ、また、〔証拠略〕は、医師渡辺昭一の原告に対する同四五年二月二一日付の証明書であつて、これには「後遺症みとめた、作業能力は家事手伝程度にして重労働は不可能」なる旨の記載が存するが、〔証拠略〕によると、右甲乙各証は、医師渡辺昭一が前示治療終了後一年半以上も経過した右甲乙各号証の日付の日に、原告を診察することもなく、診断書等の交付を請求してきた佐川千秋の供述した原告の運動制限等の症状に基づき作成したものであつて、その内容も従来の診断と全く異なるものである事実を認め得るから、右各号証の記載は到底信用できるものではなく、従つて、これをもつて右認定を動すことはできない。

(三)  なお、県立中央病院に対する鑑定嘱託の結果(昭和四七年一月一〇日付)は、「原告は背柱全体に若干の叩打痛を認めるが筋萎縮、筋力低下、知覚障害等脊髄及び抹消神経損害を示す所見はない。外傷によると思われる脊柱、四肢の変形、四肢の運動制限はない。頸椎以下腰椎までレントゲン写真では正常である。」ところから、「整形外科的に後遺症はない。脊柱全体に軽度の叩打痛を有するがこれは脊椎過敏症の状態と思われ、徐徐に軽快する性質のものであつて、特に外傷と関係なく、女性に出現する場合が多い。」とし、県立中央病院に対する鑑定嘱託の結果(同年一月五日付)によると、「脳神経症状は神経学的検査上正常で特に傷害を受けた脳神経があると考えない。脳波検査では大脳半球は全く正常で大きな傷害は考えられない。レントゲン検査では頸蓋骨々折は考えられない。」というのである。

(四)  以上に認定した原告の治療経過と症状並びに後遺症の有無に関する鑑定結果等を綜合して勘案するなら、本件事故によつて蒙つた原告の前示傷害は、おそくとも昭和四三年四月二四日には後遺症を残すことなく治癒するに至つたものと認めるのが相当であるから、原告が、なおその主張の如き自覚症状を有しているとするなら、それは、とりもなおさず、被告の主張するように、本件事故と相当因果関係を認め得ない心因性機能障害と解せざるを得ないのである。もつとも、水戸赤十字病院に対する鑑定嘱託の結果は、「原告に頭頸部外傷後遺症を認め、その程度は一四級の九相当の神経障害である。」というのであるが、〔証拠略〕によると、原告は外見上正常であり、鞭打症を思わせる所見はなく、瞳孔眼球運動、四肢反射等全く正常であり、その他脳神経学的検査においても異常はなく、頸椎、腰椎運動は略々正常であるが、脊柱(特に頸椎、胸椎上部)に外傷によるものとは認め得ない軽度の叩打痛を認めるほか、記銘力減退、左手脱力感、その他背屈時に背部に疼痛を中等度に訴えた等のことから、原告の自覚的症状に基づき右の如き後遺症を認めた事実を認め得るが、原告の右の如き自覚的症状を認めるに足る他覚的症状の存しないことは、右の供述及び前叙認定事実に徴して明らかであるから、右鑑定嘱託の結果をもつてしては、いまだ前示認定を動すことはできない。また、療術師高野芳水作成の診断書(甲第一一号証)には、「原告の前示傷害は同四四年六月三〇日治癒見込」なる記載が存するが、右甲号証は前示認定に反する原告本人の供述とともに、前顕各証拠に照らして容易く信用できず、他にこれを動すに足る証拠は存しない。

三  進んで、損害額の点について判断する。

(一)  治療費 〔証拠略〕を綜合すると、原告は前示傷害を治療するため、志村胃腸科外科病院に対し金一、三〇〇円、日立綜合病院に対し金一、二八〇円、水戸中央病院に対し金二六〇円、渡辺整形外科に対し金三、七四五円合計金六、五八五円の支出を余儀なくされた事実を認めることができる。甲第一一号証によると、原告は高野療術院に対し治療費として金九万九、六〇〇円を支払つた事実を認め得るが、右金員が本件事故と相当因果関係を認め得ないことは、先に説示したところであるから、この点に関する原告の請求は失当である。甲第七号証の一一をもつてしては、右認定を動すことはできず、他に右認定を左右するに足る証拠は存しない。

(二)  診断書料等 〔証拠略〕を綜合すると、原告は診断書料として志村胃腸科外科病院に対し金三〇〇円、診断書診療費明細書代として渡辺整形外科医院に対し金三、五〇〇円を支払つた事実を認めることができる。なお、原告が昭和四四年一一月二六日渡辺整形外科医院に対し診断書代として金三、〇〇〇円を支払つた事実は、甲第七号証の一によつて認め得るところであるが、右診断書作成の経緯に不可解な点があり、しかもその内容が到底措信し得ないものであることは、既に説示したところであり、これ等の事実によると、右診断書料は、本件事故と相当因果関係を欠くものというべきであるから、この点に関する原告の請求は失当である。他に、右認定を動すに足る証拠はない。

(三)  入院雑費 原告が前示傷害治療のため一八日間にわたつて日立総合病院に入院した事実は、既に説示したところであり、この間における入院雑費は、一日金二〇〇円の割合による合計金三、六〇〇円と認めるのが相当である。

(四)  通院交通費 高野療術院における原告の治療が本件事故との相当因果関係を認め得ないことは、前叙認定のとおりであるから、同院に通院するために要した交通費も、また本件事故による損害と認め得ないことは明らかである。従つて、この点に関する原告の請求も、また失当である。

(五)  休業損害 〔証拠略〕を綜合すると、原告は有限会社アカカンバン、株式会社小野寺市兵衛商店、有限会社瀬谷重機において伝票の整理や帳簿の記帳をなし本件事故当時一カ月金二万円の収入を得ていた事実を認めることができる。被告は、右金員は原告と同居する佐川千秋のために支払われたものである旨主張し、これに符号するかの如き証人瀬谷春一の供述部分は、前顕各証に照らして容易く措信できず、他に右主張を認めるに足る証拠は存しない。

しかして、〔証拠略〕を綜合すると、原告は本件事故によつて蒙つた傷害のため昭和四二年七月一四日から同四三年四月二四日まで前示業務に従事することができなかつたものと認めるを相当とするから、この間一カ月金二万円の割合による合計金一八万七、〇九五円の収入を失い同額の損害を蒙つたものといわなければならない。被告は、右は税理士業務に対する違法な収入で法律上の保護に値しない旨主張するが、原告が依頼を受けて伝票の整理や帳簿の記帳をしたからといつて、直ちにこれが税理士業務に該当するものということはできないから、右主張は採用しない。

(六)  逸失利益 原告の前示傷害が後遺障害を残すことなく昭和四三年四月二四日治癒した事実は、既に説示したとおりであるから、原告にそのいうところの逸失利益を認め得ないこと、多言を要しないところである。してみると、この点に関する原告の請求も、失当たるを免れない。

(七)  慰藉料 原告が本件事故によつて蒙つた傷害のため精神的肉体的苦痛を味つたであろうことは推察するに難くない。そこで、以上に説示した事実関係、その他本件記録に顕われた諸般の事情を綜合して勘案すると、原告の右苦痛は、金四五万円をもつて慰藉さるべきものと認めるのが相当である。

(八)  損害顛補 原告が本件事故に基づき自賠法による保険金一一四万〇、七一四円の支払いを受けた事実は、当事者間に争いがない。被告は、更に原告は右の保険金として金一一六万九、二八六円の支払いを受けた旨主張するが、〔証拠略〕をもつてしてはいまだ右事実を認めるに足らず、他にこれを確認するに足る証拠は存しないから、右主張は採用しない。ところで、前示(一)ないし(三)、(五)及び(七)の損害額合計は金六五万一、〇八〇円であるから、原告は、右保険金の受領により本件事故に基づく損害はすべて顛補されたものといわざるを得ない。

(九)  弁護士費用 右に説示したところによれば、原告のいう弁護士費用が本件事故との相当因果関係を認め得ないことは明らかであるから、この点に関する原告の主張も失当である。

四  以上の次第であるから、原告の本訴請求は、被告の主張する過失相殺の点について判断するまでもなく、失当として棄却すべきものである。よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 長久保武)

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